嘘八百万
虚八百万









次週のこの時間は、

いま、再びあの戦場に火花が咲く。
そして、戦いは新たな一歩へと突き進む。
「大惨事!? スーパーボロット大戦DX〜部屋とYシャツとあたいだわさ〜」にご期待下さい。


この時間は『忍者服部君』を放送の予定でしたが、諸々の事情により無期延期となりました申し訳御座いません。


「たまには東方とかどうよ」←タイトル

 霧雨魔理沙は魔法使いだ。彼女のステータスは魔法が使える程度の能力だ。
 程度って言うと、なんだかそれしかできない、っていうか役に立たないイメージがあるけど、結構凄いことなのだ!
 一、実は変身できるから魔女っ子だ。
「変、身っ!」
 掛け声とともに空手とかもろもろの武術を混ぜたポーズをとり、
「とうっ!」
 何処かの暗殺者よろしく先に飛ばした箒に着地する。
 すると、音速光速を超え、亜光速の位にまで達した魔理沙は、マジョニカルゾーンの効果によって魔女っ子「マリサ」に変身するのだ!

「とかどうよ?」
 もはやつっ込む気にもなれないと、魔理沙は炬燵の中に入れていた手を出して蜜柑を掴む。
「それで、魔理沙は白黒だから。赤白の霊夢とは相容れないわけよ!『拙僧、いままで幾人の人間を斬った』とかさ!」
 もはやそれは魔女っ子でも魔法使いでもない。
 はぁ、それにしてもこのHだが、この季節は外でアホみたいに騒いでいると思ったが、なぜこんな場所にいるのだろうか?
「お前さ。妖精たって妖物の類いじゃなかったか? それが巫女のいる神社にいるってどうよ?」
「それを言ったらあんただってどうなのよ……」
 と、会話に入ってこないと思っていた巫女、博麗霊夢のつっ込みが飛ぶ。
「あんー、オレはべつにいいんだよ。だってあたし達親友でしょ!」
 魔理沙の周りに星が飛ぶ。
「痛っ!? それ痛っ!」
 Hの頭に星があたり転がる。
「こんな狭いところでそんなもんださないでよ。それとチルノは転がらない。まったく、小まめに掃除してないから埃がたったじゃない」

 掃除しろよ。幻想卿の心が一つになった!
「―――なんか、いますごーくイラッとしたんだけど」
 気のせい気のせいとチルノと魔理沙が手を振る。
 それにしても暇だ。魔理沙は蜜柑の白い繊維を取りつつ思う。
「なぁ、なんか面白い事件とかないのか? こう、どっかの馬鹿が春を集めてるとかさ」
「それは大分前に終わったわね……まぁいいのよ。たまには何事もなく掃除をサボってボケッとするのが」
 このままじゃボケを通りこして腐りそうだな……。
「あんた、考えてること顔に出てるわよ? まぁそうね、もう少し寒くなると外にいるのが億劫になるけど、今ならまだ境内で鍋宴会とかいいわね」
 鍋か―――鍋はいい鍋は。
「よし、それならきのこ系の食材はオレにまかせな」
「却下。あんたのきのこは正直怖い。この前だってアリスが一週間笑い続けてたんでしょ? 文々。新聞に載ってたけど」
 あぁあれかと魔理沙は思い出す。
「あれはオレの責任じゃないぜ。アリスの奴が勝手に味噌汁の具にしていた笑いキノコを食べたんだから」
「なんで食べれない食材を具材に使うのよ―――」
 霊夢は溜息をつく。
 だが鍋宴会か、それは確かに良いと考える。
 なにより、材料費は折半だし酒は家にある奴を適当に見繕えばいいだろう。
「そうね、境内の使用両は一人千五百円とれば十人で一万五千円。うん、いい稼ぎ」
「いや、場所代取るなよお前……」
「いいのよ。こういう時に稼がないと―――正直、無事に年を越せるかどうか」
 切実だった。
「っと、それじゃ来そうな面子に声かけるか。おいチルノ、帰りがけにパチュリーんとこに話ししておいてくれるか?」
「んー、それはいいけど。あたいは参加パス。もう少しでレティも出てくるし」
 レテ。そうかレティか………………誰だっけ。
「そっか、それじゃえっと、レディにもよろしくいっておいてくれ」
「あんた忘れたでしょ」


来週のこの時間からは、

彼の者は忍びの末裔にして、服部の性を継ぐ者。
現代の世で新たな主君を守る為、彼は今日もその丸い瞳で外敵を見つめる!
現代忍者浪漫活劇『忍者服部君』にこうご期待。


『The ドラえもん〜殺戮のブルーと駄目少年〜』

 学校という空間は、とにかく排他的だと言わざるをえない。
 そこに所属する生徒、または教師でなければ入ることが難しい場所だ。
 父や母。親族でさえ通常は入ることができない。授業参観や運動会。または入学卒業という式ぐらいだろう。
 それ以外の理由で教師ではない大人がいれば生徒達は騒ぎだす。
 あれは誰だ? なにをしにきた? と―――
 教師以上に反応するのは生徒である。
 それはなぜか?

 五年生になった日のことだ。その日、野比のび太にとっては最愛と最悪が入り混じった日。
 クラス替えというのは、一年に一度起こる、多数ある学校行事のなかでも生徒の運命が左右されるというところでは、一番の行事ではないだろうか?
 願った。寝る間も惜しんでノートに書き取りもした。
 最愛の彼女と同じクラスになるように、と。
 実は、彼女の漢字をド忘れし、ノートにはきたないひらがなで「しずかちゃんといっしょのくらす」と無数に書き続けた。
 正直、クラスぐらいはカタカナで書けよと思うだろうが、のび太に友達といえるような友達はいなかったし、見られたらいじめの標的になっただろう。
 教室の前、扉を開けるための手が震えだすのを自覚しながらも、なんとかその手でのび太は扉を開けた。
 ガラガラガラ。学校特有の味のある扉の開閉音が響き、のび太の目にこれから一年間世話になる教室の光景が目に入った。
 ―――いた!
 のび太はこのことを日記に綴ろうと思った。そのためには日記帳を買って日記を始めなくてはいけないが、それぐらいに嬉しかった。
 そう、彼が同じクラスであると知るまでは……。

 話は戻る。
 生徒達が気にしているのは、その人物が救いを齎す救世主か、死を運ぶ死神かということ。
 とくに、のび太からすればすぐにでも両親が駆けつけてきて、自分がどれほど酷い場所で過ごしているかを見て欲しい。たすけてほしい。
「……なぁ、のび太」
 恐怖がのび太の体を硬くする。
 声の主の方を向けないのだ。
 それはまるで、蛇に睨まれた蛙のように、ただ声をかけられたというだけでのび太には逃げるという選択肢が失われている。
「のび太」
 二度名前を呼ばれ、やっとの思いでのび太を声の主に振り返った。
 そこに、どう考えても同じ小学生とは思えない、育ちすぎた小学生がいた。
「や、やぁジャイアン……なにかご用ですか?」
 あだ名で呼ぶくせに敬語になってしまう。扱いを間違えれば教師であっても殺される。それがジャイアン。
 のび太は身長が高いほうではないが、それでも背の順に並べば前から十番目ぐらいの身長だ。
 だが、このジャイアンと呼ばれた存在は、のび太が見上げることでしかその顔が拝めない。それほどにでかかった。
「のび太。今日、空き地で俺のリサイタルを行う。……そこでだ」
 と、のび太の胸がある位置のズボンのポケットから、輪ゴムで止められた紙束が渡された。
(こ、これはまさか……!?)
 それは恐怖への誘い。死への回帰と呼ばれる催しへの招待状であった。
「いいか。これを一枚五百円で捌け。全部で百枚だから五十万にはなる。なぁに、売り上げの一割はくれてやるよ。こ こ ろ の と も よ」
 のび太に断ることはできない。断れば、この間入院した骨川と同じ運命になるのは明白だったからだ。
「わ、わかりました」
 のび太の答えに気をよくしたのか、ジャイアンは自分の席へと戻って行った。
 ジャイアンは気付いていない。のび太もわかっていない。ただ、それを聞いていたクラスメイト達は、皆一様にこう思った。
「「「「「「「「「「5×100=50000!!!!」」」」」」」」」」
 と―――

 陰鬱とした気分で下校するのび太に話しかける者はいなかった。
 おばさんの井戸端会議でこそないが、人の噂は音速で広まる。
 野比のび太の手に、ジャイアン主催のリサイタルチケットがあることは周知の事実だった。
 小学生にとって五百円とは結構な額だし、買った者は名前とクラスを控えられる。
 つまり、チケットを買ってしまった人間は、死への回帰と呼ばれるリサイタルに強制参加。逃げるものならカラオケで一対一で聴かされる。
 誰だって小学生で死にたくはない。
 ちなみに、死ぬというのは比喩でもなんでもなく、実際にジャイアンのリサイタルへいって死ななかったものはいないのだ。
 そんな存在にどうして国家権力が動かないのか甚だ疑問だが、仕方無い。ジャイアンにはそれだけの恐ろしさがある。
(はぁ。それにしても、このチケットの山どうしよう)
 正直、一割というのはかなりおいしい。月のお小遣いの二か月分にはなる。
(えっと、五十万の一割だから……えっと、五千円かな?)
 計算は間違えているのだが、のび太の一月のおこづかいは二千五百円なので、結果としてあっている。それがのび太という人間を表しているだろう。
 だが、考えれば考えるほどに無理な話しだ。
 言った通り、小学生の月のお小遣いなんてたかがしれている。
 のび太のお小遣いの制度は、一学年ごとに五百円アップというもので、去年までは二千円だった。
 他の者もそれぐらいだとすれば、五百円とは彼等の一年に匹敵する額で、漫画は買えるし、食べたい物はそれなりに食べられるのだ。
 死ぬためのチケットを購入するために一年を無駄にする―――のび太にも誰にも、そんな勇気はなかった。
「もう、死ぬしかないのかな……」
 諦めが胸中にある。
 チケットは売れ残るということが許されない。
 つまり、かならずしも五十万(五万)をジャイアンに献上しなければ殺されるのだ。
 そう、話しによると二年来の付き合いである専属ダフ屋であった同じクラスの骨川も、毎度の売れ残りのためにジャイアンの怒りを買ったということだ。
 結果は全身の複雑骨折。全治半年という大怪我だ。
 情があったのか、殺すことをなんとも思わないジャイアンだが、骨川は半殺しで済んだ。
(なんか、こころのともとか言ってたし、僕も命だけは助かるのかなぁ)
 まぁ、百歩譲って生きられるのならいっかと、ネガティブなのかポジティブなのかわからない発想ののび太。
 結局、家に着くまでに答えは見付からなかった。

 二階に上がれば部屋は二つしかない。
 右側は今は亡き祖母の部屋で、そこには大好きだった祖母との思い出に溢れている。
 そして左側は自分の部屋だ。
 襖を開ければ机があり本棚があり、ふとんや着替えを入れている箪笥のある押入れがある。
 襖を開けた。そこに、見知らぬ二つの影があった。
「えっ、ちょ。き、きみたちはだれだ!?」
 知らない人間が、それも二人いた。
 っていうか、一人はのび太自身とさほど変わらない年齢の少年なのだが、その向い側にいるのがどうにもこうにも―――人でさえない、ようだった。
「……貴方が、野比。野比のび太さん……ですね」
 どこか未来的な衣服を来た少年が自分の名を呼んだことに驚く。
 考えが至らない。玄関から入れば、表札に父の名前から順番で家族の名前が書かれていることに。
 まぁ、実際には、彼等はのび太の友人として部屋に招かれたのではなく、とある場所、とある世界、とある未来からやってきたのだが―――
「ふふふ。大丈夫。安心してほしい。……のび太。いや、のび太おじいちゃん!」
 少年は涙を流してのび太に抱きついた。
 なにがなんだかわからないのび太は、それを無表情に見つめる青いボディのその存在と目があった。
 ダダスダッダダ。ダダスダッダダ。
 この間見た映画のBGMを思い出す。
 あれはそう、未来からやってきた殺人ロボットが―――という内容だったが、いやまさか。
「君達はまさか、未来から来たのか! 僕を殺す為に!」
 そうだ、きっとそうに違いない! のび太は人一倍夢見がちな少年だった。世が世なら引きこもってアニメを見続けていたことだろう。
「セワシ……話しとは大分様子が違うな。我等の格好、会話の中のちょっとしたキーワード。高い洞察力に注意力。
 我々が未来から来たことを当てた推理力は驚愕に値するよ、君のお爺さんは」
 こうだったら楽しい、こうであって欲しいという妄想だったとは口にしないのび太。
 それにしてもなんなのだろうこの青い奴は?
「ふふふ。僕も鼻が高いよ。まさか、殺戮のブルーとまで呼ばれた君に、僕のおじいちゃんが認められただなんて」
 買い被りなのだが口にはしない。
 学力レベルが小学校一年以下ののび太には、殺戮が意味することがわかっていない。辛うじてブルーが英語だと理解できる程度だ。
 のび太から離れたセワシは涙を袖で拭く。
「ふっ、まだ認めたわけではないさセワシ。彼の推理があっていたのは未来から来たというところだけ、もう一つの答えには苦笑するしかない」
 あれ、違ったのか?
「あぁちがうとも。ふん、なぜ考えていることがわかったという顔だな? 簡単だ、そんなことがわからないようでは、未来の戦場では生き残れないからだ」
 戦場。日々ジャイアンの恐怖に怯えながらも、やはり一介の小学生でしかないのび太にとっては聞き慣れない単語。
「おじいちゃん。彼は、未来の世界では有名な殺人機械なんだ。お腹のポケットは四次元に通じ、そこからあらゆる用途で使用できる未来の道具がつまってる。
 彼は千の戦場を駆け抜けて不敗。ただの一度の負けも、ただの一度の敗走もない。彼は常に一人剣の丘でドラ焼きを食べる。
 そう、未来テクノロジーの集大成“殺戮のブルー”こと、ドラえもんが彼なんだ!」
 正直半分は聞き逃したのび太だが、とりあえず凄い奴だということはわかった。
「で、その殺戮のブルーと、僕の孫なんだろう君は、なにをしにきたんだい?」  のび太の脳の記憶容量は常人の一割にも満たない。故に、なんでもいいから結論を言ってほしかった。
「君の日記がセワシの家から発見された。それにはこう記されていた『○月×日 だふやににんめい。やばい、しぬ。』とね。
 セワシはね、それが君の運命を変えるメークポイントだと計算したんだ。そう、だから君を助けにきたんだ!」
 のび太はちゃんと、しずかちゃんと同じクラスになったので日記を始めていた。全部ひらがなで読み難いことありゃしないのだが。
「さぁおじいちゃん。彼は僕の家と専属契約をしてくれた。そして、僕の命令はおじいちゃんの外敵を排除し、おじいちゃんの望みを遂行すること!
 だからおじいちゃん。ジャイアンを倒して、彼の妹と結婚する未来はなしにして! ウチ貧乏でマジこまってるんねんで!?」
 どこの方言かのび太にはわからない。書いている俺にもわからない。
 のび太はドラえもんを見る。
 よく見れば青いボディには無数の細かい傷があった。
 千の戦場を駆けぬけ一度として負けなかった伝説の殺人機械。殺戮のブルー、ドラえもん!
 のび太の想像する未来は少しだけ薔薇色になった。もしかしたら、僕達は救われるのか、ジャイアンという恐怖そのものから!



来週のこの時間からは、

深層の蒼いボディに優しき瞳。
多くの敵をバッタバッタとなぎ倒す、不思議な不思議な未来の道具!
『The ドラえもん〜殺戮のブルーと駄目少年〜』
いま、のび太の未来が決まる……


カツオ決死の突入―――

 学校か……。
 五年前のあの日。自分が人間ではなく人型魚類だと知らされたあの日。
 カツオはいまでもその時の事を覚えている。
 何時もの居間に、大事な家族。
 父さんに母さん。姉さんにマスオ兄さん。ワカメにタラちゃん。
 朝御飯を食べた僕達に、父さんが言ったんだ。
『カツオ。ワカメ。タラオ。言っておくことがある』
 父さんの話は未来予知のようなものだった。
 人間による環境破壊が齎す地球温暖化。
 それに伴う水位の上昇、陸地の減少。けれど、安心だと言った。
『それはどういうことなの?』
 僕の問いに父さんは言った。
『いいかい皆。我々の一族は、姿形こそ人の姿をしているが、実は魚類なんだ』

 ―――そうして今、卒業することのなかった小学校にカツオは立っている。
「ノリスケ叔父さんポイントAに到着」
『了解。叔父さんにタエコも準備はできている。いいかいカツオくん。イクラにタラちゃんの命は君の手にかかっている。
 けれど気負うことはない。悲しいけど、犠牲を最小限に抑えるには捨て置くこともできるんだ』
 ノリスケの言葉に生気はない。
 それはそうだろう。いま向うのは人の要塞。何百という罠と何千という人間が待ち構えているのだ。
 そう、自分達が人型魚類だと知ったあと、世界には人間外の知的生物を排除する動きが始まった。
 人型魚類とは魚類の特性を持ったままに新化した者達を差し、仲間内でわかるように名前には海や水に関する言葉が使用される。
 仲間は多く存在するが、それでも人間に比べたら何万分の一という差だ。
「ノリスケ叔父さん―――大丈夫、タラちゃんもイクラちゃんも僕達の仲間で……家族だ。犠牲にさせはしないよ」
 カツオの言葉には気迫が篭っていた。
 力強いその言葉にノリスケは息を飲み、頭を振った。
『ごめんカツオくん。大人である僕がしっかりしなくちゃいけないんだ』
「そうだよノリスケ叔父さん。さぁ作戦を開始しよう!」
『了解! タエコ、叔父さん、オペレーション回遊魚を発動する!』
 通信機から聞こえたノリスケの言葉にカツオは動き出す。
 友がいた場所。自分の学び舎であった場所。そして、そこは人間と人型魚類を分かつ決戦の場所―――!


タラオの死。サザエ怒りの超変身!!

「中嶋君。どうして貴方が……」
「磯野のお姉さん―――確かに、僕は磯野とは親友でした。その友情は永遠に変わることはなく、僕達はずっと一緒だとも思ってました。
 ―――えぇ、いまでもたまに思うんですよ。彼の友達だということで家族を殺されたクラスメイト達。
 人型魚類と通じているのではと、数年間僕達全員がこの学校に監禁された。取り調べ問いう虐待にかおりちゃんは廃人になり、
 花沢さんもクラスの女子を守る為に銃殺された。そんな場所にね、一年もいれば誰だって思ってくるんだ。そっか、奴等は仲間ではない、敵なんだ。ってね」
 サザエもその話は知っていた。
 人型魚類差別は古くは戦国時代からあったという。
 当時の武将は、いまだ色濃く魚類の特徴を残していた人型魚類が戦で斬られれば、
『あのもの鯛子とか申したか? ほほう鯛の開きを見れるとはおもしろきかな』などと馬鹿にしたという。
 現在、それはもっと酷い形の差別、人型魚類への虐待となった。
 そして、それはただ特定期間、同じ場所で生活をしていたというだけの、同じ仲間である人にも向けられた。
 中嶋の話は酷く残酷だが、それは虐待の一部分でしかない。
 肉体への痛み、女性としての性的虐待。友人であった人型魚類の料理を食べさせられるという精神的なものまで、虐待方法は百にものぼるという。
「さて、それじゃ始めますよ。磯野たちはもう学校の前まで来ているという。
 家族に心配かけまいと単身乗り込んできた貴女には、とっておきのショーを見せてあげますよ!」
 瞬間、渇いた音がサザエの耳に届いた。
 硝煙の臭い。立ち上る白い煙。中嶋の右手には真っ黒な、拳銃―――
「た、タラちゃん。タラ、タラちゃああああああああああああああああああああん」
 絶叫が教室に木霊する。
「ははは。ははははは。はっはっはっはっ。はーっはっはっはっ!!!
 磯野、磯野、磯野! 俺が、俺がお前の甥を殺してやったぞ。お前の大事な仲間、家族をなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あっ、あぁぁ。どうして、どうしてこんなこと……」
 サザエは悔しくて涙を流していた。
 中嶋への怒り。無力な自分への怒り。人と魚類という、種族差別への怒り。
「大丈夫ですよ磯野のお姉さん! ちゃんと他の魚類どもも地獄へ送ってやるからなぁぁぁぁぁ!!!!」
 他の魚類。父さん、母さん、カツオ、ワカメ、タエコさん、ノリスケさん。捕まっているイクラちゃん。
 倒れている我が子を見る。
 気絶していたため銃弾を受けた痛みはなかったと思う。
 眠るように、けれど殺されて逝ったのだ。
 貴方。貴方。私達の子供は逝きました。貴方。どうか愚かな私を見守ってください―――
「私の」
「あん?」
「私の大切な」
「なんだなんだ?」
「私の大切な家族には」
「うるせぇなてめぇ!」
「私の大切な家族には、これ以上指一本ふれさせはしない!」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇ。イネヤごらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 放たれる凶弾。
 人の動体視力では追うことはできず、また、人の身では受けたが最後。
 が、それはただの人のみに通用する絶対的な暴力でしかない。
 カァン。硬い何かに銃弾が弾かれた。
「なっ。ば、ばかなっ。拳銃だぞ。拳銃の弾があたって、なんでそんな音がするんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
   中嶋は拳銃を撃ち続ける。
 バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!!
 その全てが弾かれた。見た目には生身の人間。けれど、人ではなく魚類である女に。
 中嶋はハッとする。そうだ、姿形こそ人ではあるが、あれは人ではなく魚類。
 ではまさか。もしそうだとすると。
 中嶋に電流走る。
「ま、まさか―――」
「えぇそうよ中嶋君。貴方は完璧な思い違いをしていたは。
 私達人型魚類の名前には、仲間を判別するための意味と、もう一つの意味がある。
 人間にもたまにある現象。祖先にある生物の古の記憶。そう、私達はそれを意図的に行うことができる―――!」
「まさか、それが、それがこれだなんて。でも、それじゃ、それじゃ!」
「そう、一度やってしまえばあとはどうしようもない。人の姿を捨て、人であった記憶を失い。完全な魚類へと変貌する。
 これを、人型魚類では禁断のの秘儀“先祖返り”と呼ぶ! ハァァァァァァァァァァァァァァァァア!」


 疲れたからもういいや。


さぁて来週のサザエさんは――
「カツオ決死の突入」
「タラオの死。サザエ怒りの超変身!!」
「先人の遺産。発進、巨大戦艦NAMIHEI」
の三本です。


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